遠野は、アイヌ語でTO(湖)NUP(丘原)の意味で、太古に湖水であったという。『遠野物語』は、「伝え言う、遠野郷の地大昔はすべて一円の湖水なりしに、其水猿ヶ石川と為りて人界に流れ出でしより、自然に此の如き邑落をなせしなりと」と語る。遠野の村建て神話では「おいし・おろく・おはつ」という三人の姫神が遠野三山にそれぞれ住みたまうことから始まるという。
やがて湖水の水は猿ヶ石となって流れ出し、七内八崎と呼ばれる谷間と岬が入り組んだ地形を残す事になる。四方の山々の渓流が盆地底で合流して猿ヶ石となる。そしてまたそこに、神隠しにあったサムトの婆や渕神の話、河童伝説を生むことになる。長い年月の間、この土地の人々が繰り広げてきた神と自然との交流や人間模様を、歴史・、民俗として伝えることは、未来に生きる者の心の糧となるものと思う。(岩間博)